出向を断れるかは、会社にその出向を命じる根拠があるかで分かれる。埼玉県の労働相談の解説は、出向を命じるには労働者の個別的な同意か、就業規則や労働協約上の根拠が必要とされていると整理している。根拠があるなら、次は労働契約法第14条の権利の濫用にあたるかという段に移る。2段構えだ。
先に読む書面は2枚。辞令と、就業規則の出向規程。断る理由を言葉にする前に、この2枚で根拠の側を確かめられる。
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出向を断れるかは、会社にその出向を命じる根拠があるかで分かれる。埼玉県の労働相談の解説は、出向を命じるには労働者の個別的な同意か、就業規則や労働協約上の根拠が必要とされていると整理している。根拠があるなら、次は労働契約法第14条の権利の濫用にあたるかという段に移る。2段構えだ。
先に読む書面は2枚。辞令と、就業規則の出向規程。断る理由を言葉にする前に、この2枚で根拠の側を確かめられる。
労働契約法第14条はこう定める。使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。
条文は「命ずることができる場合において」から始まっている。つまり第14条は、命じる根拠があることを前提にして、そこから先の濫用だけを扱う条文だ。根拠そのものが無いときは、第14条を持ち出すより前の話になる。埼玉県の解説は、出向の根拠がない場合について、出向元への復帰を求めるか、従前の労働条件と出向先の労働条件の差について補償を求め、会社と話し合うことが考えられるとしている。
厚生労働省の「在籍型出向『基本がわかる』ハンドブック」も同じ順で書いている。在籍型出向を命じるには、労働者の個別的な同意を得るか、または出向先での賃金・労働条件、出向の期間、復帰の仕方などが就業規則や労働協約等によって労働者の利益に配慮して整備されている必要があるとされている、と。
就業規則を根拠にする場合に何が書かれていればよいか。埼玉県の解説は、出向先の範囲、出向期間、身分、賃金、労働時間などが明確に定められている必要があると書く。判例も出向規程が合理的であることを求めているとしている。逆に、出向を命じることがあるといった簡単な規定しかない場合は、会社が出向の条件を示して改めて同意を得る必要があったと考えられる、という整理だ。
照合の単位は、厚生労働省のハンドブックが載せた出向規程の参考例から取れる。参考例は次の条項を持っている。
自分の会社の出向規程を開いて、この5つがどれだけ埋まっているかを見る。参考例はあくまで例の一つで、各社の規程がこの形とは限らない。期間の欄が空白、復帰の記述が無い、不利益解消の条項が無い。そういう規程なら、根拠として足りているかを会社に聞く材料になる。
辞令の側では、第4条が挙げた説明事項が届いているかを数える。出向先の名称、勤務地、期間、業務の内容、労働条件。5つのうち何が書かれていないか。
同じ「出向」という社内の言い方の中に、元の会社との雇用契約が終わる形が混ざっている。転籍(移籍型出向)だ。埼玉県の解説は、転籍の命令の根拠を原則として個別の同意が必要とし、就業規則や労働協約を根拠に命じることはできないとしている。広島県の労働相談Q&Aも、転籍命令には出向と同様、就業規則等の規定があるだけではなく、さらに労働者の個別の合意が必要とされていますと説明する。
拒否の余地は、ここで大きく変わる。だから辞令を受け取ったら、自分の雇用契約が残るのかどうかを最初に確かめる。残るなら在籍型で、終わるなら転籍。
例外もある。埼玉県の解説は、密接な人事交流がある系列企業グループ内の異動など、例外的に包括的な事前合意が認められる余地があると付け加えている。入社時の書面に転籍の了承が入っているかどうかは、読み返せる。
ハンドブックは、出向命令が無効とされた裁判例を1件紹介している。一貫してデスクワークの仕事をしてきた労働者について、希望退職募集への応募の勧奨を断った段階で、子会社に出向させて単純作業に従事させた場合。この出向は、退職勧奨を断った労働者が自主退職することを期待して行われたものであり、業務上の必要性がなく、また、人選の合理性も認めることもできず、権利の濫用に当たり無効となる場合があるとする裁判例がある(東京地裁 平成25年11月12日判決)。
この事案から取り出せる軸は2つ。業務上の必要性と、人選の合理性。第14条が挙げる「その必要性」「対象労働者の選定に係る事情」に、そのまま対応している。
自分の場合に当てはめるなら、確かめるのは順番と中身だ。出向の話が出たのは何の直後か。退職や希望退職の打診、評価面談、異動の希望を断った場面。その直後に出向の話が来ているなら、時系列そのものが記録になる。もう1つは、出向先で任される仕事の内容が、これまでの仕事と技能の面でつながっているかどうか。裁判例はデスクワークから単純作業への落差を事実として挙げている。
1件の裁判例であり、結論がそのまま自分の場合に当てはまるものではない。判断は個別の事情による。
もう1つの軸が、出向そのものの適法性だ。ハンドブックは、在籍型出向の形態は労働者供給に該当すると書いている。労働者供給を業として行うことは、職業安定法第44条が禁じる。
そのうえで、次のいずれかの目的があるもの等は基本的に「業として行う」ものではないと判断されるとしている。
ハンドブックは注意点も挙げる。当初から出向させることを目的として雇い入れて出向を命じたり、雇用維持の目的と考えられる範囲を超える形で新たに出向を命じたりしないよう留意が必要だ、と。
打診の場で聞く質問は、ここから1つ作れる。この出向の目的は4つのどれですか。答えが曖昧なまま出向先での指揮命令だけが移るなら、形としては労働者供給の側に寄る。労働局に相談するときに、この軸は使える。
断る・受けるを決める前に、記録として残せるものが3つある。
1つ、書面の数。辞令に書かれた項目と、就業規則の出向規程にある条項。足りないものを並べて書き出す。2つ、時系列。出向の話が出た日と、その前の3か月に会社から受けた打診や面談の日付。3つ、労働条件の差。出向先の所定労働時間、休日、通勤時間、賃金の支給元。分かっている範囲で、いまの条件と並べる。
相談先は、都道府県の労働相談窓口と労働局。出向規程の整備が足りないと感じた場合も、労働条件の差を埋める措置を求めたい場合も、この窓口で扱う。拒否したあとの懲戒や解雇の判断については、人事異動の拒否、異動の種類で変わるに労働契約法第15条・第16条まで書いた。
出向で動くのは勤務地と仕事の内容だけではない。指示の出方、確認の頻度、裁量の広さ、人と接する量。会社をまたぐと、これらがまとめて動く。
断るか受けるかを決める材料も、差の大きさで変わる。いまの職場の条件を12の軸で記録しておくと、出向先の条件と並べて見られる。打診を受けた段階の記録は、あとから読み返せる。
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