雇用契約書の書き方を決める14項目

雇用契約書に決まった様式は無い。労働条件を明示する書面の様式は自由で、厚生労働省もモデル様式を公開しているだけ。書き方として決まっているのは、書くべき事項のほうである。

労働基準法施行規則5条が挙げる明示事項は14項目。そのうち1から6まで(昇給を除く)は、書面を交付して明示しなければならない。残りは、使用者がその定めを設ける場合に明示する。この線引きを知っていると、手元の書面に無い項目が「書き漏れ」なのか「制度が無いだけ」なのかを分けられる。書類の性格そのものについては雇用契約書とは、書面にした労働条件に書いた。

書面の交付が要る6つと、定めがあるときの8つ

書面の交付が要るのは、次の6項目(5の昇給部分を除く)。

  1. 労働契約の期間
  2. 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
  3. 就業の場所及び従事すべき業務
  4. 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日等
  5. 賃金、昇給
  6. 退職

残る8項目は、会社がその定めを設ける場合に明示する。退職手当、臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)・賞与及び最低賃金額等、労働者に負担させるべき食費・作業用品その他、安全及び衛生、職業訓練、災害補償及び業務外の傷病扶助、表彰及び制裁、そして休職。8つ。

制度が無ければ書かなくてよい、という作り。だから書面に退職手当の欄が無いことは、それ自体では書き漏れを意味しない。制度があるのに書かれていないときに、初めて差が生じる。

2024年4月から、書く欄が3種類増えた

全ての労働契約の締結時と、有期労働契約の更新時に、就業場所・業務の「変更の範囲」を明示することになった。有期労働契約では、締結時と更新時に、更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容も書く。

無期転換申込権が発生する契約の更新時には、さらに2つ。無期転換申込機会と、無期転換後の労働条件である。厚生労働省が無期転換申込機会の記載例として示している文面は「本契約期間中に無期労働契約締結の申込みをした時は、本契約期間満了の翌日から無期雇用に転換することができる。」というもので、無期転換後の労働条件のほうは「無期転換後の労働条件は本契約と同じ」または「無期転換後は、労働時間を○○、賃金を○○に変更する。」という書き分けになっている。前者か後者かで、転換後の生活が変わる。

最初の労働契約の締結後に更新上限を新設したり短縮したりする場合、その理由を労働者にあらかじめ説明することも求められる。あとから上限が付いたときは、理由を聞いてよい場面。

詳細を就業規則へ送る書き方がある

書面に全部を書ききらず、条番号で就業規則を指す書き方も認められている。厚生労働省が示した記載例を見ると、作りが分かる。

就業の場所 (雇入れ直後)松江支店 (変更の範囲)会社の定める支店(ただし会社の承認を受けた場合はAブロック内の支店。詳細は就業規則第25、26条参照)

この場合、就業規則の側にAブロックの中身が置かれている。例では第26条が「勤務地域を限定する場合は地域を下記のブロック単位とする。Aブロック:島根県、鳥取県、兵庫県」と定める形になっていて、書面の括弧に書かれた条番号をたどって初めて、承認を受けたときに勤務地がどの3県の範囲に収まるのかが分かる作りになっている。たどらなければ、転勤の範囲は分からないまま。

育児・介護による短時間勤務中は原則として勤務地の変更を行わない、といった限定を括弧書きで入れる例も示されている。書面の括弧の中身は、読み飛ばさない。

パートや有期なら、4つ足される

パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れたとき、契約更新のときも含めて、事業主は労働基準法15条の明示事項に加えて4つの事項を文書の交付により明示する。昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口。パートタイム・有期雇用労働法6条1項による。

相談窓口は、部署名・担当者職氏名・連絡先を書く欄になっている。ここが埋まっていれば、待遇の疑問をどこに持っていくかが最初から決まる。

紙でなくてよい条件

書面の交付によらず、ファクシミリの送信や電子メール等の送信で明示することも可能とされている。条件は1つ。労働者が希望した場合に限る。

会社の都合で紙をやめる、という順序ではない。希望していないのにメールだけで済まされているなら、書面を求める根拠がある。

書き方の決まりを、手元の書面で数える

測り方は数えること。4つの数を出せば、書面が決まりを満たしているかが見える。

  1. 書面に載っている絶対的な事項の数。上の6項目のうち、いくつ書かれているか。満点は6。
  2. 会社に制度があるのに書かれていない事項の数。退職金や賞与、休職の制度があるかは、就業規則か人事に確かめる。
  3. 変更の範囲の条番号をたどれたか。就業規則の参照先が書かれていて、その就業規則を実際に読めたなら達成。
  4. 有期契約なら、更新上限と更新の判断基準が埋まっているか。

数えた結果が6項目に満たないとき、不足している事項を挙げて会社に確かめる。「契約書をください」と頼むかわりに「始業及び終業の時刻と休憩時間が書面に見当たらないので、書かれたものをいただけますか」と項目名で聞けば、相手は様式を探す作業ではなく欄を埋める作業として受け取れるので、話が前に進みやすい。聞き方の問題。

書き方が揃っていても、合うかどうかは別の話

明示事項が全部埋まった書面は、会社が義務を果たした書面である。そこに書かれた条件が自分に合うかどうかは、別に測ることになる。転勤の範囲が明示されていても、その範囲を受け入れられるかは人によって違う。

workprevu の診断は、職場の環境を12の軸に割って記録し、自分に合う条件との距離を見るためのもの。書面の項目を数えたあと、どの項目を重く見るかを決める順番になる。

出典

  1. 2024年4月からの備えは大丈夫ですか? 労働条件明示事項が追加されます(厚生労働省、2024年4月1日施行。労働基準法施行規則5条の明示事項14項目、就業規則へ送る記載例、パート・有期労働法6条1項の追加4事項)
  2. 令和6年4月から労働条件明示のルールが変わります(厚生労働省 熊本労働局。2024年4月に追加された明示事項と、更新上限を新設・短縮する場合の説明)