管理職のメリットを4つに割る

管理職のメリットとして挙げられるものは、測れる単位に割ると4つになる。賃金、決められる範囲、入ってくる情報、そして時間の扱い。前の3つは増える方向に動き、4つ目は増える場合と減る場合がある。よく挙がる言い方のうち、年収やスキルや市場価値に関わるものは結果の予想で、昇格の前に自分の職場で確かめられる数にはならない。打診を受けて返事を保留しているなら、この4つに自分の職場の数字を入れていくのが先。

社内の管理職と、法律上の管理監督者は範囲が違う

「管理職」は社内の役職の呼び方で、法律が定めた区分ではない。労働基準法41条2号は「監督若しくは管理の地位にある者」を労働時間・休憩・休日の規定から外すけれど、厚生労働省は該当するかどうかを「役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します」としている。

課長・部長・店長と呼び方が同じでも、権限と待遇の中身は職場ごとに違う。だから「管理職になると何が変わるか」という問いは、役職名の解説をいくつ読んでも一般論のまま残り、自分の職場の値を入れないかぎり答えに近づかない。変わるものの一覧だけを先に決める。値は自分で入れる。

賃金は、役職の段ごとに差が開く

厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査は、役職と非役職の賃金格差を指数で出している。雇用期間の定めのない一般労働者で、非役職者を100としたときの指数は、男女計で係長級127.4、課長級169.1、部長級207.1。段が1つ上がるごとに差が開く形になっている。

ただしこの指数は、雇用期間の定めのない一般労働者を役職の段ごとにまとめた平均の比で、昇格した本人の手取りがいくら増えるかという話とは重なっていない。自分の場合の変化は、付く役職手当の額と、無くなる手当の額の差で決まる。仮に役職手当が月3万円付いて、それまで月4万円あった時間外手当が丸ごと消えるなら、差は月1万円のマイナスで、年額では12万円の減少という計算になる。引き算が先。

決められる範囲は、4つの領域で数える

「裁量が広がる」は、そのままでは測れない。厚生労働省が管理監督者性の判断で挙げた項目を裏返すと、権限の在りかを確かめる領域が4つ出てくる。

領域 自分に権限があるか
採用 部下の採用(人選のみを行う場合も含む)に関する責任と権限があるか
解雇 部下の解雇に関する事項が職務内容に含まれ、実質的に関与しているか
人事考課 部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれ、自分の評価が最終評価になるか
労働時間 勤務割表の作成や所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にあるか

4つに「ある」が並ぶなら、決められる範囲は実際に広がっている。肩書が変わっても決裁の経路が前と同じなら、広がっていない。確かめ方は単純で、直近3か月のあいだに自分の判断だけで通した決定を数え、上司の承認を挟んだ決定の数と並べて比べればいい。なお厚生労働省のパンフレットは、否定要素に当たらないものがあるからといって直ちに管理監督者として認められるわけではない、とも書いている。権限が広がることと、法律上の扱いが変わることは、別々に起きる。

裁量そのものの定義と測り方は裁量権とはに書いた。

情報が増えるかは、出る会議の数で分かる

部下の人事考課や勤務割表に関わると、それまで回ってこなかった数字が手元に来る。部門の予算、欠員の計画、評価の分布。この増え方は、新しく出席することになる会議の種類と回数で数えられる。昇格したら出ることになる会議の名前と頻度を打診の場で一覧にして出してもらえば、情報がどれだけ増えるのかは返事をする前に分かる。質問は1つで済む。

時間の扱いは、残業代の有無で分かれる

管理監督者に当たる場合、1週40時間・1日8時間の上限と、毎週少なくとも1回の休日の規定が適用されない。時間外労働と休日労働の割増賃金も発生しない。一方で深夜業(22時から翌日5時まで)の割増賃金は支払われ、年次有給休暇も一般労働者と同様に与えられる。

無くなる手当がいくらかは、辞令よりも給与明細に出る。昇格前の3か月と後の3か月について、時間外手当・深夜手当・役職手当の行をそれぞれ合計し、前後で引き算すると、年額に換算したときの増減の正味が出る。残業の多い職場では、ここが負になることもある。

引き受けるかを決めるとき、見る数

返事は、次の5つを埋めてから決められる。

  1. 役職手当の額と、無くなる手当の見込み額
  2. 直属の部下の人数と、人事考課の対象になる人数
  3. 自分の決裁だけで確定できる事項の数(上の4領域)
  4. 新しく出る会議の本数と、そこに取られる時間
  5. 自分の遅刻・早退が、減給や人事考課の対象から外れるかどうか

4だけが大きく、1が小さく、3が0に近いなら、動くのは肩書だけ。5つは別々に数える。上司との関係そのものに引っかかりがあるなら、上司と合わない原因の切り分けが先になる。

広がった裁量が合うかは、人によって違う

決められる範囲が広がることを、助かると受け取る人がいる。同じ変化を負担として受け取る人もいる。手順が決まっている状態のほうが力を出せる人は、決める回数が増えた分だけ仕事の進めにくさが増えることがある。裁量は、多いほど自分に合うという種類の条件ではない。合う量が人ごとに違う。

だから「メリットかどうか」は、一覧を埋めたあとで自分が決める。賃金の平均値や役職ごとの指数は、どれだけ細かく並べても、その判断に使う材料の1つにしかならない。残りは自分の記録から出す。

自分の職場で確かめる

上の5項目のうち、2と3は記録に残せる。誰の評価を自分が決めたか、どの週のシフトを自分が確定したか。昇格の前後で並べると、肩書が変わった月と権限が変わった月が同じだったのかが見える。

workprevu の診断は、職場の条件を12の項目に割って記録する。裁量の範囲と確認の頻度は、そのうちの2つ。自分の答えと同じ職場の人の答えを並べて、どこがずれているかを見る形にしてある。

出典

  1. 令和6年賃金構造基本統計調査の概況 (8)役職別にみた賃金(厚生労働省、2024年調査)
  2. 労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署、2008年9月)