稟議の書き方は、規程から読める

稟議書に書くのは、読んだ人がその場で承認の判断を下せて、半年後に別の人が読んでも同じ筋を辿れるだけの材料だ。基準として一番はっきりしているのは、公文書の世界にある。内閣府が2017年に各府省へ出した通知は、公文書管理法第4条の趣旨として「当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう」文書を作成することが重要だと書いている。社内のひな形の空欄が何を求めているのかは、この基準から読める。

稟議書は、担当者の権限を超える事案について、承認を集めるために回す書面。その1枚にどの欄があるかは会社ごとに違うが、欄が聞いていることは共通している。

欄が聞いているのは4点

自治体や官公庁の処務規程は公開されているので、何を書かせる決まりになっているかを確かめられる。山梨県人事委員会事務局処務規程の第16条は、定例的または軽易な事案を除き、文書には「作成理由、内容の説明その他参考となる事項について記載し、資料があるときは、これを添付すること」と定めている。

作成理由、内容の説明、参考となる事項、添付資料。この4点が骨で、民間のひな形にある「件名」「申請内容」「目的・背景」「金額」「添付」は、4点をもう少し細かく割った欄だ。

件名は一読で中身が分かる形にする。「システム導入の件」では、読み手は中身を開くまで規模が分からない。何を、いくらで、いつから。この3つが件名に入っていれば、回議の途中の人は本文を読む前に自分が判断すべき事案かどうかを決められる。

金額の書き方が、回る先を変える

同じ規程の第18条は、起案文書には「事案に関して決裁権限を有する者の職を決裁区分として表示しなければならない」と定めている。誰が決める事案かを、紙の上に職名で書く決まり。民間でも決裁権限規程に金額の線が引かれていて、総額がその線を越えるかどうかで、決裁者が課長か部長か役員かに変わる。

だから金額は総額と内訳の両方を書く。月額のサービスを1年契約で入れるなら、月額だけ書いた稟議と、総額で書いた稟議は、別の人のところへ回る。支払時期も同じで、今期に落ちるのか来期にまたぐのかで、見る人が増えることがある。

誰に回るかは、書く前に決まっている

第21条は「起案文書の回議は、意志決定に必要な最小限度にとどめるものとし」と定め、順序を担当リーダー、次長補佐、総括次長補佐、次長、事務局長とおおむね決めている。財務規則で部課長の承認が必要な場合は、関係する部課長への合議も要る。

順序が先に決まっているということは、最初の読み手が誰かも決まっているということだ。自分の会社の規程で順序を読んでおくと、どの段で何を聞かれるかの見当がつく。1人目が直属の上司なら、背景の説明は薄くてよく、3人目が経理や法務なら、金額の根拠と契約条件の記述が要る。

不利な材料も書くのは、跡付けのため

通知が言う「跡付け、又は検証することができるよう」という基準に照らすと、都合の良い材料だけを並べた稟議書は条件を満たさない。比較した案と、選ばなかった理由。想定している不具合と、起きたときの対応。これが入っていないと、半年後に読んだ人は、なぜこの案になったのかを再現できない。

通知には、意思決定と同時に文書を作成することが困難であるときは事後に文書を作成することが必要だとも書かれている。先に動いてしまった事案を後から起案する場合も、経緯を省いていい理由にはならない。

直されたときに残るもの

第23条は修正の扱いを定めている。修正者は修正部分を明示し、文書管理システムで修正した場合は必要事項を登録、紙の起案では修正部分に押印する(用字・用語などの形式的な修正は除く)。合議後に重大な修正を受けて決裁された場合や、廃案になった場合は、修正前に合議した者へ連絡する。

差し戻しは、個人の記憶ではなく履歴として残る。同じ事案で複数回起案するときは、第22条により、すでに決裁を受けた起案文書を関連文書として添付する。つまり前の稟議の中身は次の稟議に引き継がれる。前例を探すなら、同じ件名の過去の起案文書が一番早い。

書く前に数える3つ

手を動かす前に調べておくと、差し戻しの回数が減る。決裁権限規程の金額の線。回議の順序と合議先の部署。同じ型の案件で過去に通った起案文書。3つ目があれば、欄の埋め方はほぼそれに倣える。

起案日と決裁日を控えておくのも効く。4件たまると、自分の職場で承認にかかる日数の中位が出る。次に似た案件を出すとき、いつまでに起案すれば間に合うかが逆算できる。

自分の職場で確かめる

書き方そのものより、何を自分で決められて何を上げなければならないかの線のほうが、日々の働き方を決めている。その線の読み方は裁量権とは何を自分で決められるかに、差し戻しがどこで生まれるかの切り分けはやり直しが多い仕事の原因に書いた。

workprevu の診断は、職場の条件を12の項目に割って記録する。手順がどこまで決まっているか、仕事の進め方をどこまで自分で決められるか、確認がどれくらいの頻度で入るか。稟議の段の数と待ち時間は、この3つの項目に現れる。

出典

  1. 山梨県人事委員会事務局処務規程(第16条 行政文書の作成、第18条 決裁区分、第21条 回議及び合議、第22条 同一事案における添付書類、第23条 起案の修正等)/山梨県/例規集
  2. 公文書管理法に基づく行政文書の取扱いについて(通知)府公第186号。公文書管理法第4条の趣旨、意思決定に至る過程の跡付け・検証/内閣府事務次官/2017年9月21日